大江戸からくり人形制作記

(2003.1.25記)

 江戸時代には多くのからくり人形というものがあり、その中でも有名なもののひとつに、子供がもったお盆にお茶わんをのせると運んでいって、空を受け取ってもどってくる、というモノがある。これを、学研が復刻したのである。
 学研は、「大人の科学」というシリーズを数年前から出していて、これは昔、子供の時「科学と学習」で育った世代に、大人となった今、再び楽しんでもらおうというものである。すでにいろいろなものが出ていて、この「大江戸からくり人形」はその最新版である。昨年、発売予告があり予約可能であることがわかった時点でWEB予約をポチっと入れた私は、発売日とほぼ同時に宅急便で受け取っていたのであるが、時間がとれず、今年の正月にやっと組み立てることが出来た。以下は、そのレポートである。

 組立には、1時間ちょっとかかった。おそらく、普通なら1時間はかからないであろう。実は、このキット、部品がプラスティックで出来ているのだが、ネジ止め、なのである。だからどうした、と言われると困るのだが、普段、金属パーツに慣れている私は、プラスティック部品となると、ネジ止めの加減がわからず、かなり慎重にやっていったのである。金属パーツでさえ、場所に応じてネジ止めのトルクというものは調整するものである、締めすぎたら割れてしまうプラスティックなんて怖くて怖くて・・・・これはおそらく、普段ネジを使いすぎた故の“病気”みたいなものであろう。(-_-;)
 説明書も、「まず、これをこうやって、つぎにあれを・・」という感じで、総括的なものがあまりなく、手順書、なので、全体を把握してからやるのが主義の私としてはやりにくかったというのもある。まあ、でも、結構詳しく書かれていたと思う。
 説明書の絵があいまいなところがあり、???と思いながら組んだところがあり、案の定組み上がったものは動かなかった。「やっぱあそこか」と思ったので、ばらして組み直して、今度はOK。よく見たら、説明書の他にトラブルシューティングみたいなものがあり、そこに該当することが書いてある。「なら、はじめっからちゃんと書けよな」とちょっと(-_-#)。

 そんなこんなで、組んだものが、これ。

スケルトンバージョン
着衣バージョン


メカニズム編

 実に多くのメカニズムが駆使されているのであるが、とくに感心したものを説明してみる。
まずは、この写真である。



 この人形は、ぜんまい動力なのであるが、まずしばらく前進して、お辞儀をする、そしてクルリと回って戻ってくる(このときお盆の茶わんを取ると止まる)。この方向転換のメカニズムのキモが、ここである。赤丸で示してあるが、ぜんまいで回る主動力輪は正円ではなく、だんだん径が大きくなり、あるところでもとに戻るといういびつな形をしている。この主動力輪にセンサーとなるものが付いており、径にしたがって動くようになっている。赤丸に示しているのは、径が最大値から最小値に戻る直前であり、戻ると、ねじれた金属板でその変化が青丸で示した「かじ取り車輪」に伝わり、旋回するようかじ取り車輪を動かすのである。実は、最大径は調整が可能(ネジで動くようになっている)であり、調整によって旋回の程度を変えることができる。いったまま戻ってくることも出来るし、60度くらいの角度でもどってくることも出来るのである。



 また、進むときは「すり足」をするのであるが、それがこの写真の赤丸のところで制御されている。前進は正円の車輪で行なうのであるが、その軸に軸を少しずらした円盤がついており(車輪の内側なので写真では見えない)、その円盤に足の付け根が円弧で掛けられているために、車輪が回ると足が前後に、すり足、状態に動く。もちろん、足の動きが前後のみに制限されているから、こうなるわけであるが、かなり芸がこまかい。



 これは、お盆に茶わんがのると前進するしくみである。赤丸が“腕”なのであるが、これが黄色の丸(上のほう)でしめしたところに動きを伝え、縦にはまっている金属棒(チョット見にくいですが、釘みたいのが上下に入っています)を上下させます。これは、横にある板ばね(白いやつです)からでている糸で引っ張られており、通常は下にいっているのですが、腕が下がったとき(茶わんがのったとき)に連動して上に上がるのです。
 そして、上にあがると、下の黄色丸で囲んだところで、棒が歯車から外れます。この歯車が、前進のための動力を制御しており、棒がはずれると回りだし、前進をはじめるわけです。



さらにこれは、速度調整機構です。ぜんまいの動力でフルに進んでしまうと、スゴイ速度となります。子供がすり足で・・・・という遅い速度を実現するために、赤丸部の下部にある“おもり”により減速を行なっています。実際には、赤丸中央部の歯車も減速に重要なしくみ(行司輪とよばれるからくりです)なのですが、詳しく説明するのは困難です。しかし、感動ものの仕組みなので、興味おありの方はこちらをごらんください。

 このようにして組み立てた人形の動きをビデオでとってみました。
(要QuickTime

スケルトン編 着衣編


感想

部品はプラスティックであるし、メカニズムも現代風のものに置き換えられているのであるが、基本的な仕組みは江戸時代そのままであるところが、非常に興味深いものであった。今でも、ロボットを動かすためには、(電子的なものとは別に)さまざまなメカニカルな工夫が必要なのであるが、かなりの部分が江戸時代に完成しているのではないか、とも思える。
 自然科学の世界では、日本というのは後進国と思われているが、それは鎖国などにより交流が少なかったからであり、独自文化としてかなり高度なものがあったということの証拠が、このからくり人形のような気がする。こういうものが、6000円程度で購入出来るというのは、ホント、学研さまさま、ですねえ。
 大人の科学、他のシリーズも・・・・買ってしまうかも・・・(^_^;)