Chiral(キラル、カイラル)とは、
鏡像体が重ね合わせる事が出来ないこと」で定義される状態のことである。

鏡像体とは、文字通り「鏡に映ったような構造を持つもの」であり、あなた自身を鏡に映して見ればわかるように、あなたと鏡の中のあなた、とはそっくりである。しかし、あなたが右手を挙げれば、鏡の中のあなたは左手を挙げる。そう、あなたと鏡の中のあなた、は重ね合わせることは出来ないのである。人間はキラルである

methan

メタン分子(CH4)が、平面的な構造ではなく、正四面体の中心に炭素、各頂点に水素を配置したような構造を持つように、すべての有機化合物は立体構造を持つ。そして、一つの炭素原子のまわりに4つの異なる原子団が結合したとき、鏡像体同士を重ね合わせることができない、という現象が起きる。

glu

平面的に書けば真ん中の構造式のようなグルタミン酸も、実際には立体構造を持つ。上に示したように、D-グルタミン酸とL-グルタミン酸の2種類の立体構造があり、この二つは互いに鏡像であり重ね合わせる事が出来ない。このような関係の化合物を「鏡像異性体(エナンチオマー)」という。

L-グルタミン酸のナトリウム塩は「味の素」である。うま味成分出であるこの化合物のエナンチオマーであるD-グルタミン酸ナトリウム塩は、美味くない、苦いのである。これは、人間の体もキラルな分子で出来ているため、エナンチオマーに対する感受性が異なるからである。実は、この感受性の差が、化合物が医薬品の場合には致命的な効果となることがあるのである。

一方のエナンチオマーに重篤な副作用があり、エナンチオマーの混合物(ラセミ体)として販売されたことにより多数の被害者を出した医薬品として有名なものに「サリドマイド」がある。詳細は、別途述べるが、このようなことから、医薬品となる化合物の各エナンチオマーを作り分ける技術である「不斉合成」の研究が盛んになってきた。2001年ノーベル化学賞を野依良治教授が受賞されたように、この不斉合成という分野、日本がかなり高いレベルにいるいくつかの分野のうちの一つである。